はじめに
こんにちは!今回は、Ubuntu 24.04 DesktopというLinuxのオペレーティングシステム上で、macOSを動かす方法を詳しく学びます。これは「仮想化」という技術を使って実現します。
1.1 仮想化とは
仮想化とは、1台の物理的なコンピュータの中に、別のコンピュータを仮想的に作り出す技術のことです。この技術を使うと、1台のコンピュータで複数の異なるオペレーティングシステムを同時に動かすことができます。
仮想化には以下のような利点があります:
- 複数のOSを1台のハードウェアで動かせる
- 異なるOSの動作を安全に試験できる
- ハードウェアリソースを効率的に使用できる
- 異なるOSに依存するソフトウェアを1台のマシンで使用できる
1.2 なぜUbuntu上でmacOSを動かすのか
UbuntuはLinuxベースの人気のあるオープンソースOSで、安定性と柔軟性に優れています。一方、macOSはApple社が開発した独自のOSで、デザインや使いやすさに定評があります。Ubuntu上でmacOSを動かすことで、以下のような利点が得られます:
- Macハードウェアを購入せずにmacOSを体験できる
- LinuxとmacOS両方の長所を活かせる
- macOS専用のソフトウェアをLinuxマシンで使用できる
- 開発者がmacOS向けのアプリケーションをテストできる
- 必要な環境
2.1 ハードウェア要件
この作業を行うためには、以下のようなハードウェア要件を満たす必要があります:
- CPU: Intel VT-xまたはAMD SVMをサポートするプロセッサ
(例: Intel Core i7-7700HQ) - これらの技術は、仮想化を効率的に行うためのハードウェアサポートを提供します
- メモリ: 16GB以上推奨(8GB最小)
- 仮想マシンはホストOSとは別にメモリを消費するため、十分なメモリが必要です
- ストレージ: 最低100GB以上の空き容量
- macOSのインストールと仮想ディスクのために十分な空き容量が必要です
2.2 ソフトウェア要件
- Ubuntu 24.04 Desktop(事前にインストールされていること)
- UbuntuはLinuxディストリビューションの一つで、使いやすさと安定性に定評があります
- 24.04は長期サポート(LTS)版で、5年間のサポートが提供されます
2.3 重要な注意事項
macOSを仮想マシンで動かすことは、Apple社のソフトウェア使用許諾契約に違反する可能性があります。この方法は、教育目的や個人的な実験のためにのみ使用し、商業目的での使用は避けてください。
- 準備作業
3.1 CPUの仮想化対応確認
まず、お使いのCPUが仮想化に対応しているか確認します。これは非常に重要な手順で、仮想化機能が利用できない場合、この先の作業を進めることができません。
ターミナルを開いて、次のコマンドを入力します:
grep -e vmx -e svm /proc/cpuinfo
このコマンドの詳細な解説:
grep
: テキストの検索を行うコマンドです。指定したパターンに一致する行を表示します。-e vmx -e svm
:-e
オプションは、複数の検索パターンを指定するために使用します。vmx
: Intel CPUの仮想化技術を示すフラグです。svm
: AMD CPUの仮想化技術を示すフラグです。/proc/cpuinfo
: このファイルにはCPUの詳細情報が記録されています。Linuxシステムでは、/proc
ディレクトリにシステム情報が格納されています。
このコマンドを実行すると、以下のような結果が表示される可能性があります:
Intel CPUの場合:
flags : fpu vme de pse tsc msr pae mce cx8 apic sep mtrr pge mca cmov pat pse36 clflush dts acpi mmx fxsr sse sse2 ss ht tm pbe syscall nx pdpe1gb rdtscp lm constant_tsc art arch_perfmon pebs bts rep_good nopl xtopology nonstop_tsc cpuid aperfmperf pni pclmulqdq dtes64 monitor ds_cpl vmx est tm2 ssse3 sdbg fma cx16 xtpr pdcm pcid sse4_1 sse4_2 x2apic movbe popcnt tsc_deadline_timer aes xsave avx f16c rdrand lahf_lm abm 3dnowprefetch cpuid_fault epb invpcid_single pti ssbd ibrs ibpb stibp tpr_shadow vnmi flexpriority ept vpid ept_ad fsgsbase tsc_adjust bmi1 avx2 smep bmi2 erms invpcid mpx rdseed adx smap clflushopt intel_pt xsaveopt xsavec xgetbv1 xsaves dtherm ida arat pln pts hwp hwp_notify hwp_act_window hwp_epp md_clear flush_l1d
AMD CPUの場合:
flags : fpu vme de pse tsc msr pae mce cx8 apic sep mtrr pge mca cmov pat pse36 clflush mmx fxsr sse sse2 ht syscall nx mmxext fxsr_opt pdpe1gb rdtscp lm constant_tsc rep_good nopl nonstop_tsc cpuid extd_apicid aperfmperf pni pclmulqdq monitor ssse3 fma cx16 sse4_1 sse4_2 movbe popcnt aes xsave avx f16c rdrand lahf_lm cmp_legacy svm extapic cr8_legacy abm sse4a misalignsse 3dnowprefetch osvw skinit wdt tce topoext perfctr_core perfctr_nb bpext perfctr_llc mwaitx cpb hw_pstate sme ssbd sev ibpb vmmcall fsgsbase bmi1 avx2 smep bmi2 rdseed adx smap clflushopt sha_ni xsaveopt xsavec xgetbv1 xsaves clzero irperf xsaveerptr arat npt lbrv svm_lock nrip_save tsc_scale vmcb_clean flushbyasid decodeassists pausefilter pfthreshold avic v_vmsave_vmload vgif overflow_recov succor smca
結果に「vmx」(Intel)または「svm」(AMD)が表示されれば、CPUが仮想化に対応していることを意味します。
表示されない場合は、BIOS/UEFIの設定で仮想化機能が無効になっている可能性があります。その場合は以下の手順を試してください:
- コンピュータを再起動し、起動時にBIOS/UEFI設定画面に入ります(通常、F2やDeleteキーを押します)
- BIOS/UEFI設定画面に入るキーは、コンピュータのメーカーや機種によって異なる場合があります。起動時の画面をよく観察するか、マニュアルを確認してください。
- BIOS/UEFI設定画面で、以下のような名称の項目を探します:
- 「Virtualization Technology」
- 「Intel VT-x」
- 「AMD-V」
- 「SVM Mode」
これらの項目を見つけたら、「Enabled」または「On」に設定します。
- 設定を保存して再起動します。通常、F10キーを押すと設定が保存されます。
- 再起動後、再度ターミナルで
grep
コマンドを実行して、仮想化機能が有効になったことを確認します。
3.2 必要なソフトウェアのインストール
次に、必要なソフトウェアをインストールします。これらのソフトウェアは、仮想マシンの作成と管理、macOSイメージの操作などに必要です。
ターミナルで以下のコマンドを実行します:
sudo apt install qemu-system
このコマンドの詳細な解説:
sudo
: “superuser do”の略で、管理者権限でコマンドを実行します。パスワードの入力を求められる場合があります。apt
: Advanced Package Toolの略で、Ubuntuのパッケージ管理システムです。install
: パッケージをインストールする指示です。qemu-system
: QEMU(Quick EMUlator)の本体パッケージです。QEMUは、様々なアーキテクチャの仮想マシンを作成・実行できる優れたエミュレータです。
このコマンドを実行すると、システムは必要な依存関係を自動的に解決し、QEMUとその関連パッケージをインストールします。
続いて、他の必要なパッケージもインストールします:
sudo apt-get install uml-utilities virt-manager git wget libguestfs-tools p7zip-full make dmg2img tesseract-ocr tesseract-ocr-eng genisoimage vim net-tools screen -y
このコマンドでインストールされる主なパッケージの詳細説明:
uml-utilities
: User Mode Linux用のユーティリティです。仮想ネットワークの設定などに使用されます。virt-manager
: 仮想マシン管理用のGUIツールです。QEMU/KVM仮想マシンの作成、設定、管理を視覚的に行えます。git
: 分散型バージョン管理システムです。ソフトウェアのソースコードなどを管理するために使用されます。wget
: ウェブサーバーからファイルをダウンロードするためのコマンドラインツールです。libguestfs-tools
: 仮想マシンのディスクイメージを操作するためのツールセットです。p7zip-full
: 高圧縮率のアーカイブを作成・展開するためのツールです。dmg2img
: Apple Disk Image (.dmg) ファイルを標準的なディスクイメージ形式に変換するツールです。tesseract-ocr
とtesseract-ocr-eng
: 光学文字認識(OCR)エンジンとその英語データです。genisoimage
: CD-ROM/DVDファイルシステムイメージを作成するためのツールです。vim
: 高機能なテキストエディタです。設定ファイルの編集などに便利です。net-tools
: ネットワーク関連の基本的なコマンドツールセットです。screen
: 仮想端末を管理するツールです。長時間実行されるプロセスを管理するのに便利です。
-y
オプションは、インストール中の確認プロンプトに自動的に「はい」と答えるようシステムに指示します。
これらのパッケージをインストールすることで、macOSを仮想マシンで動かすための環境が整います。
- OSX-KVMのセットアップ
次に、macOSを仮想マシンで動かすためのツールである「OSX-KVM」をセットアップします。OSX-KVMは、QEMUとKVMを使用してmacOSを仮想マシンで動作させるためのスクリプトと設定ファイルのコレクションです。
4.1 リポジトリのクローン
GitHubからOSX-KVMのリポジトリをクローン(コピー)します。以下のコマンドを順番に実行します:
cd ~
git clone --depth 1 --recursive https://github.com/kholia/OSX-KVM.git
cd OSX-KVM
これらのコマンドの詳細な解説:
cd ~
:
cd
は「change directory」の略で、指定したディレクトリに移動するコマンドです。~
はホームディレクトリを表すショートカットです。- このコマンドで、作業をユーザーのホームディレクトリで行うようにしています。
git clone --depth 1 --recursive https://github.com/kholia/OSX-KVM.git
:
git clone
: GitHubなどのリモートリポジトリからプロジェクトをローカルにコピーするコマンドです。--depth 1
: これは「浅いクローン」を行うオプションです。リポジトリの履歴を1つのコミットだけに制限し、ダウンロード時間とディスク使用量を削減します。--recursive
: サブモジュール(プロジェクト内の別のGitプロジェクト)も含めてクローンします。https://github.com/kholia/OSX-KVM.git
: クローンするリポジトリのURLです。
cd OSX-KVM
:
- クローンしたOSX-KVMディレクトリに移動します。以降の操作はこのディレクトリ内で行います。
これらのコマンドを実行することで、OSX-KVMプロジェクトの最新バージョンが手元のコンピュータにダウンロードされ、そのディレクトリに移動します。これにより、macOSを仮想マシンで動かすための準備が整います。
4.2 KVMモジュールの設定
次に、KVM(Kernel-based Virtual Machine)の設定を行います。KVMは、Linuxカーネルに組み込まれた仮想化機能で、高速な仮想マシンの実行を可能にします。
以下のコマンドを実行します:
sudo modprobe kvm
echo 1 | sudo tee /sys/module/kvm/parameters/ignore_msrs
これらのコマンドの詳細な解説:
sudo modprobe kvm
:
modprobe
はLinuxカーネルモジュールをロードするコマンドです。kvm
は、ロードするモジュールの名前です。- このコマンドにより、KVMモジュールがカーネルにロードされ、仮想化機能が利用可能になります。
echo 1 | sudo tee /sys/module/kvm/parameters/ignore_msrs
:
echo 1
: 1という値を出力します。|
: パイプ記号で、前のコマンドの出力を次のコマンドの入力として渡します。sudo tee /sys/module/kvm/parameters/ignore_msrs
:tee
コマンドは入力を受け取り、それをファイルと標準出力の両方に書き込みます。/sys/module/kvm/parameters/ignore_msrs
は、KVMモジュールのパラメータファイルです。
- このコマンドは、KVMに対して未定義のModel Specific Registers (MSRs)を無視するよう指示します。これにより、一部のゲストOSの互換性が向上します。
続いて、KVMの設定ファイルをコピーします:
sudo cp kvm.conf /etc/modprobe.d/kvm.conf
このコマンドの解説:
cp
はファイルをコピーするコマンドです。kvm.conf
は、OSX-KVMプロジェクトに含まれているKVMの設定ファイルです。/etc/modprobe.d/kvm.conf
は、システムのKVM設定ファイルの標準的な場所です。
この設定ファイルには、KVMの動作を最適化するためのパラメータが含まれています。例えば、ネステッド仮想化の有効化や、特定の機能の無効化などが設定されている可能性があります。
4.3 ユーザー権限の設定
仮想マシンを適切に操作できるよう、現在のユーザーに必要な権限を追加します:
sudo usermod -aG kvm $(whoami)
sudo usermod -aG libvirt $(whoami)
sudo usermod -aG input $(whoami)
これらのコマンドの詳細な解説:
usermod
: ユーザーアカウントの設定を変更するコマンドです。-aG
: 指定したグループにユーザーを追加するオプションです。-a
は「append」の意味で、既存のグループ所属を維持したまま新しいグループを追加します。-G
は追加するグループを指定します。$(whoami)
: 現在のユーザー名を取得するコマンドです。
sudo usermod -aG kvm $(whoami)
:
- 現在のユーザーを
kvm
グループに追加します。 kvm
グループのメンバーは、KVM仮想化機能を使用する権限を持ちます。
sudo usermod -aG libvirt $(whoami)
:
- 現在のユーザーを
libvirt
グループに追加します。 libvirt
は仮想化管理のためのAPIとデーモンで、このグループのメンバーはlibvirtを使用して仮想マシンを管理できます。
sudo usermod -aG input $(whoami)
:
- 現在のユーザーを
input
グループに追加します。 input
グループのメンバーは、キーボードやマウスなどの入力デバイスにアクセスする権限を持ちます。
これらの設定により、現在のユーザーが仮想マシンの管理や入力デバイスの制御を適切に行えるようになります。ただし、これらの変更を反映させるには、一度ログアウトしてから再度ログインする必要があります。
以上で、OSX-KVMのセットアップと必要な権限の設定が完了しました。次のステップでは、macOSのイメージをダウンロードし、仮想マシンを準備していきます。
- macOSイメージの準備
5.1 macOSイメージのダウンロード
OSX-KVMプロジェクトには、macOSのイメージをダウンロードするためのスクリプトが含まれています。以下のコマンドを実行してください:
./fetch-macOS-v2.py
このスクリプトを実行すると、利用可能なmacOSのバージョンリストが表示されます。通常は、最新の安定版を選択することをお勧めします。この例では、Venturaを選択します(通常は6番などの数字を入力して選択します)。
スクリプトは自動的にAppleのサーバーからmacOSのインストーラーイメージ(BaseSystem.dmg)をダウンロードします。このプロセスには時間がかかる場合があります。ダウンロード速度はインターネット接続によって異なります。
5.2 イメージの変換
ダウンロードしたイメージを、QEMUで使用可能な形式に変換する必要があります。以下のコマンドを使用します:
dmg2img -i BaseSystem.dmg BaseSystem.img
このコマンドの解説:
dmg2img
: Appleの.dmgファイルを標準的なディスクイメージ形式に変換するツールです。-i BaseSystem.dmg
: 入力ファイル(ダウンロードしたmacOSイメージ)を指定します。BaseSystem.img
: 出力ファイル名を指定します。これがQEMUで使用するイメージになります。
5.3 仮想ハードディスクの作成
次に、macOSをインストールするための仮想ハードディスクを作成します:
qemu-img create -f qcow2 mac_hdd_ng.img 128G
このコマンドの詳細な解説:
qemu-img
: QEMUのディスクイメージを管理するツールです。create
: 新しいディスクイメージを作成することを指示します。-f qcow2
: QEMU Copy-On-Write version 2フォーマットを指定します。これは効率的なスペース利用が可能な形式です。mac_hdd_ng.img
: 作成する仮想ハードディスクファイルの名前です。128G
: 仮想ハードディスクの最大サイズを128ギガバイトに設定します。
注意: qcow2形式は動的に拡張するため、最初から128GBのスペースを占有するわけではありません。実際に使用されたデータ量に応じてファイルサイズが増加します。
- 仮想マシンの起動
これで、仮想マシンを起動する準備が整いました。OSX-KVMプロジェクトには、仮想マシンを起動するためのスクリプトが用意されています。以下のコマンドを実行してください:
./OpenCore-Boot.sh
このスクリプトは、QEMUを使用してmacOSの仮想マシンを起動します。起動プロセスには数分かかる場合があります。
起動が完了すると、macOSのインストーラー画面が表示されるはずです。ここから通常のmacOSのインストールプロセスを進めることができます。
- macOSのインストールと設定
仮想マシン内でmacOSのインストールを進めます。以下の手順を参考にしてください:
- 言語を選択します。
- ディスクユーティリティを開き、先ほど作成した仮想ハードディスク(mac_hdd_ng.img)を初期化します。
- インストーラーの指示に従って、macOSをインストールします。
- インストールが完了したら、基本的な設定(アカウント作成、ネットワーク設定など)を行います。
注意点:
- インストールプロセス中、仮想マシンのパフォーマンスは物理的なMacよりも遅い場合があります。
- ネットワーク設定やグラフィックスドライバーなど、一部の機能が制限される可能性があります。
以上で、Ubuntu上でのmacOSの仮想マシンのセットアップと起動が完了します。この環境を使って、macOSアプリケーションのテストや開発、macOSの機能の探索などを行うことができます。