- はじめに: WSLとは何か
WSL(Windows Subsystem for Linux)は、Windows 10以降のOSで利用できる革新的な機能です。簡単に言えば、Windowsの中にLinuxの世界を作り出す魔法のようなものです。
想像してみてください。あなたは長年使い慣れたWindowsの部屋に住んでいます。そして突然、その部屋の中にLinuxという新しい部屋が現れたのです。しかも、この二つの部屋は自由に行き来できるのです。これがWSLの基本的な概念です。
WSLの主な利点:
- WindowsとLinuxの融合:
WindowsとLinuxは、コンピューターの世界では二大勢力のようなものです。これまでは、どちらかを選ばなければならなかったのですが、WSLによってその壁が取り払われました。Windowsの使いやすさとLinuxの強力なコマンドラインツールの両方を同時に使えるのです。 - 開発環境の構築が容易に:
多くのプログラミング言語やフレームワークは、Linux環境での使用を前提としています。WSLを使えば、Windowsマシンでそのままこれらの開発環境を構築できます。例えば、Pythonやnode.jsのプロジェクトを、Linuxと全く同じように扱えるのです。 - Linuxの学習がWindows上で可能:
Linuxのコマンドやシステムについて学びたい人にとって、WSLは素晴らしい練習場となります。わざわざ別のマシンを用意したり、デュアルブートを設定したりする必要がありません。 - リソースの効率的な使用:
仮想マシンを使う従来の方法と比べて、WSLは非常に軽量です。メモリやCPUの使用量が少なく、バッテリーの消費も抑えられます。 - ファイル共有の容易さ:
WindowsのファイルシステムとLinuxのファイルシステムの間でファイルを簡単に共有できます。これは、異なるOSで作業する際の大きな障壁を取り除いてくれます。
WSLの歴史:
WSLは2016年にWindows 10の一機能として初めて導入されました。当初はWSL 1として知られる基本的な機能でしたが、2019年にWSL 2が登場し、完全なLinuxカーネルのサポートが実現しました。これにより、より多くのLinuxネイティブアプリケーションが動作可能になり、パフォーマンスも大幅に向上しました。
WSLを使うべき人:
- ウェブ開発者やプログラマー
- データサイエンティストや研究者
- システム管理者
- Linuxを学びたい学生や技術愛好家
- クロスプラットフォーム開発を行う人
WSLを使わない方がいい人:
- Linuxの完全な機能やGUIアプリケーションが必要な人(ただし、WSL 2ではGUIアプリケーションも限定的にサポートされています)
- ハードウェアに直接アクセスする必要がある人
- 極めて高度なシステムレベルの操作を必要とする人
WSLとVirtual Machine(仮想マシン)の違い:
WSLと仮想マシンは似ているようで異なるものです。仮想マシンは完全に独立したOSを別のOS上で動かすのに対し、WSLはWindowsのカーネルを利用してLinuxのバイナリを直接実行します。そのため、WSLの方が軽量で起動が速く、Windowsとの統合性も高いのです。
- WSLのインストール方法
WSLをインストールする過程は、まるで新しい友達を家に招待するようなものです。準備と手順を踏めば、すぐにLinuxという新しい仲間があなたのWindowsパソコンに住むことになります。
Step 1: WSL機能を有効にする
まず、Windows PowerShellを管理者権限で開きます。これは、Windowsのスタートメニューで「PowerShell」と入力し、「管理者として実行」を選択することで行えます。
PowerShellが開いたら、以下のコマンドを入力します:
wsl --install
このコマンドは魔法の呪文のようなもので、WSL2と最新のUbuntuディストリビューションをインストールします。Ubuntuは、初心者に優しいLinuxディストリビューションの一つです。
注意点:
- このコマンドは、Windows 10 バージョン2004以降、またはWindows 11で動作します。
- もし古いバージョンのWindowsを使用している場合は、Windows Updateを実行して最新版にアップデートしてください。
コマンドを実行すると、必要なコンポーネントのダウンロードとインストールが自動的に始まります。これには数分から数十分かかる場合があります。あなたのインターネット接続速度とコンピューターの性能によって変わりますので、気長に待ちましょう。
Step 2: 再起動
インストールが完了したら、コンピューターの再起動を求められます。これは、新しくインストールしたWSLの機能を有効にするために必要な手順です。再起動することで、WSLが正しく動作するための準備が整います。
Step 3: Ubuntuの初期設定
再起動後、Ubuntuが自動的に起動します。これは、新しい友達が初めてあなたの家に来たときのようなものです。ここで、Ubuntuとの付き合い方を決めます。
具体的には、以下の設定を行います:
- ユーザー名の設定:
好きなユーザー名を入力します。これは、Linuxシステム内であなたを識別するための名前です。 例:
Enter new UNIX username: myusername
- パスワードの設定:
安全なパスワードを入力します。このパスワードは、管理者権限(sudo)を使用する際に必要となります。 注意点:
- パスワードを入力しても画面上には何も表示されません。これは通常の動作です。
- パスワードは8文字以上で、大文字、小文字、数字、記号を含めると安全性が高まります。 例:
New password:
Retype new password:
これでWSLの基本的なインストールは完了です!おめでとうございます。あなたのWindowsパソコンに、Linux(Ubuntu)という新しい仲間が加わりました。
追加の情報:
- WSLのバージョン確認:
インストールしたWSLのバージョンを確認するには、PowerShellで以下のコマンドを実行します:
wsl --status
- 複数のLinuxディストリビューションのインストール:
WSLでは、複数のLinuxディストリビューションを同時にインストールすることができます。例えば、UbuntuだけでなくDebianやFedoraなども使用できます。これらは、Microsoft Storeからインストールできます。 - WSLの更新:
WSLを最新バージョンに更新するには、以下のコマンドを使用します:
wsl --update
- カスタムLinuxイメージの使用
WSLの魅力の一つは、複数のLinux環境を同時に扱えることです。さらに、同じディストリビューションの同じバージョンを複数作成することもできます。これは、異なるプロジェクトや設定のために独立した環境を作りたい場合に非常に便利です。
しかし、Microsoft Storeからインストールできる標準のLinuxディストリビューションでは、同じバージョンを複数インストールすることはできません。ここで登場するのが、カスタムLinuxイメージの使用です。
カスタムイメージを使うことで、以下のようなメリットがあります:
- 同じディストリビューションの複数のインスタンスを作成できる
- 特定の設定やソフトウェアがプリインストールされた環境を用意できる
- 会社や学校で使用する特殊な環境を簡単に複製できる
それでは、カスタムLinuxイメージを使用する手順を見ていきましょう。
Step 1: カスタムLinuxイメージを取得する
まず、使用したいLinuxディストリビューションのrootfsイメージを入手する必要があります。例として、Ubuntuの公式サイトからrootfsイメージをダウンロードする方法を説明します。
- ブラウザで以下のURLにアクセスします:
https://cloud-images.ubuntu.com/ - 使用したいUbuntuのバージョンを選択します(例:focal – 20.04 LTS)
- 「release」フォルダをクリックし、さらに「release」をクリックします
- ファイル一覧から「ubuntu-20.04-server-cloudimg-amd64-wsl.rootfs.tar.gz」のようなファイルを探してダウンロードします
注意点:
- ファイル名は選択したバージョンによって異なる場合があります
- ダウンロードしたファイルは、分かりやすい場所(例:C:\WSLImages)に保存しておくと良いでしょう
Step 2: イメージをインポートする
次に、ダウンロードしたイメージをWSLにインポートします。これには、PowerShellを使用します。
- PowerShellを管理者権限で開きます
- 以下のコマンドを実行します:
wsl --import MyCustomUbuntu C:\WSL\MyCustomUbuntu C:\WSLImages\ubuntu-20.04-server-cloudimg-amd64-wsl.rootfs.tar.gz --version 2
このコマンドの各部分を解説します:
wsl --import
: WSLに新しいディストリビューションをインポートするコマンドMyCustomUbuntu
: 新しいディストリビューションの名前(好きな名前を付けられます)C:\WSL\MyCustomUbuntu
: 新しいディストリビューションのインストール先(任意のフォルダを指定できます)C:\WSLImages\ubuntu-20.04-server-cloudimg-amd64-wsl.rootfs.tar.gz
: ダウンロードしたrootfsイメージファイルのパス--version 2
: WSL 2を使用することを指定(推奨)
注意点:
- パスに空白が含まれる場合は、パス全体をダブルクォーテーションで囲みます
- 同じコマンドを使って、異なる名前と保存先を指定することで、同じイメージから複数のインスタンスを作成できます
Step 3: インポートを確認する
インポートが成功したかどうかを確認するために、以下のコマンドを実行します:
wsl -l -v
このコマンドは、インストールされているすべてのWSLディストリビューションとそのバージョンを表示します。先ほどインポートした「MyCustomUbuntu」が一覧に表示されていれば成功です。
WSLを設定した後、WindowsのエクスプローラにLinuxのアイコンが表示されていると思います。WSL環境が正常にインストールされ、Windowsと統合されていることを示しています。このアイコンをクリックすると、Linuxのファイルシステムに直接アクセスでき、ファイルの閲覧や編集がWindows上で可能になります。
具体的には、エクスプローラ上で「\wsl$\」というアドレスを使用することで、WSLのルートディレクトリやホームディレクトリにアクセスできます。便利なのは、WindowsとLinuxの間でファイルをシームレスにやり取りすることが可能なことです。
Step 4: カスタムディストリビューションを起動する
新しくインポートしたディストリビューションを起動するには、以下のコマンドを使用します:
wsl -d MyCustomUbuntu
これで、カスタムのUbuntu環境が起動します。最初の起動時は、rootユーザーでログインした状態になります。
補足:ユーザーの作成
カスタムイメージを使用する場合、通常のユーザーアカウントが存在しないため、セキュリティ上の理由から新しいユーザーを作成することをお勧めします。
- 新しいユーザーを作成:
adduser myusername
画面の指示に従って、パスワードや追加情報を入力します。
- 作成したユーザーにsudo権限を付与:
usermod -aG sudo myusername
- 新しいユーザーに切り替え:
su - myusername
これで、カスタムLinuxイメージを使用した環境が整いました。同じイメージから複数のインスタンスを作成したり、異なる設定やソフトウェアをプリインストールしたイメージを用意したりすることで、柔軟な開発環境を構築できます。
- ユーザー設定と安全性
WSLを使用する際、特にカスタムイメージを使用する場合、適切なユーザー設定とセキュリティ対策は非常に重要です。これは、家に新しい部屋を作ったときに、その部屋の鍵と使用規則を決めるようなものです。
4.1 ユーザーの作成
カスタムイメージを使用した場合、デフォルトではrootユーザーでログインします。しかし、rootユーザーは全ての権限を持つため、日常的な使用には適していません。そこで、通常のユーザーを作成することをお勧めします。
新しいユーザーを作成する手順:
Step 1: ユーザーの追加
adduser myusername
このコマンドを実行すると、ユーザー名やパスワード、その他の情報(フルネーム、電話番号など)の入力を求められます。必要に応じて入力してください。
Step 2: sudo権限の付与
gpasswd -a myusername sudo
このコマンドで、作成したユーザーに管理者権限(sudo)を与えます。これにより、必要な時だけ管理者権限を使用できるようになります。
注意点:
- ユーザー名は覚えやすく、他人が推測しにくいものを選びましょう。
- パスワードは十分に強力なものを設定してください。大文字、小文字、数字、記号を組み合わせると良いでしょう。
4.2 デフォルトユーザーの変更
WSLを起動するたびに自動的に作成したユーザーでログインするように設定できます。これにより、より安全かつ便利にWSLを使用できます。
設定手順:
Step 1: WSL設定ファイルの編集
sudo nano /etc/wsl.conf
このコマンドで、WSLの設定ファイルをテキストエディタ(nano)で開きます。
Step 2: 以下の内容を追加
[user]
default=myusername
ここで、「myusername」は先ほど作成したユーザー名に置き換えてください。
Step 3: 設定ファイルの保存
nanoエディタで編集が終わったら、Ctrl+X を押し、Yを押してEnterで保存します。
Step 4: WSLの再起動
Windows PowerShellで以下を実行:
wsl --shutdown
この後、WSLを再度起動すると、設定したユーザーで自動的にログインするようになります。
4.3 セキュリティの重要性
通常のユーザーを使用することの利点:
- システム全体に影響を与える操作のリスクが低減:
rootユーザーは全ての操作が可能なため、誤って重要なシステムファイルを変更・削除してしまうリスクがあります。通常ユーザーではそのリスクが大幅に減ります。 - 誤操作によるシステム破損のリスクが低下:
通常ユーザーの権限では、システムの核心部分に影響を与える操作ができないため、誤ってシステムを破壊してしまう可能性が低くなります。 - セキュリティベストプラクティスに準拠:
多くのセキュリティガイドラインでは、日常的な作業を特権ユーザー(root)で行わないことを推奨しています。 - アプリケーションの安全な実行:
多くのアプリケーションは、セキュリティ上の理由からrootユーザーでの実行を禁止または制限しています。通常ユーザーを使用することで、これらのアプリケーションを問題なく実行できます。
必要に応じて sudo
コマンドを使用することで、管理者権限が必要な操作も実行できます。例えば:
sudo apt update
このコマンドは、パッケージリストを更新するために管理者権限を一時的に使用します。
4.4 ファイアウォールの設定
WSLはWindowsのファイアウォールを使用しますが、追加の設定が必要な場合があります。特に、WSL内でサーバーを動かす場合は注意が必要です。
- Windows Defenderファイアウォールの設定を確認
- 必要に応じて、特定のポートやアプリケーションの通信を許可
4.5 定期的なアップデート
セキュリティを維持するためには、WSLとそのディストリビューションを定期的にアップデートすることが重要です。
WSLのアップデート:
wsl --update
Ubuntuなどのディストリビューションのアップデート:
sudo apt update && sudo apt upgrade -y
これらの設定と習慣により、WSLをより安全に、そして効率的に使用することができます。セキュリティは常に意識しておくべき重要な要素です。
- Dockerの導入
Dockerとは、アプリケーションとその実行に必要な全ての要素をパッケージ化し、どこでも同じように動作させることができる技術です。これを「コンテナ化」と呼びます。
Dockerを使うと何が良いのでしょうか?例えば、次のような利点があります:
- 環境の一貫性:開発、テスト、本番環境を全く同じ状態で維持できます。
- 簡単な共有:チーム全員が同じ環境で作業できます。
- リソースの効率的な利用:仮想マシンよりも軽量です。
- 迅速なデプロイ:アプリケーションの配布や更新が簡単になります。
それでは、WSL上でDockerを導入する手順を見ていきましょう。
5.1 Dockerのインストール
Step 1: 必要なパッケージのインストール
まず、Dockerをインストールするために必要なパッケージをインストールします。WSL内で以下のコマンドを実行してください:
sudo apt-get update
sudo apt-get install ca-certificates curl gnupg
これらのコマンドは、パッケージリストを更新し、必要なツールをインストールします。
Step 2: Dockerの公式GPGキーの追加
次に、Dockerの公式GPGキーを追加します。これは、ダウンロードするパッケージが本物であることを確認するために必要です:
sudo install -m 0755 -d /etc/apt/keyrings
curl -fsSL https://download.docker.com/linux/ubuntu/gpg | sudo gpg --dearmor -o /etc/apt/keyrings/docker.gpg
sudo chmod a+r /etc/apt/keyrings/docker.gpg
Step 3: Dockerリポジトリの設定
Dockerをインストールするためのリポジトリを設定します:
echo \
"deb [arch="$(dpkg --print-architecture)" signed-by=/etc/apt/keyrings/docker.gpg] https://download.docker.com/linux/ubuntu \
"$(. /etc/os-release && echo "$VERSION_CODENAME")" stable" | \
sudo tee /etc/apt/sources.list.d/docker.list > /dev/null
このコマンドは少し複雑に見えますが、要するにDockerのダウンロード元を指定しているのです。
Step 4: Dockerのインストール
いよいよDockerをインストールします:
sudo apt-get update
sudo apt-get install docker-ce docker-ce-cli containerd.io docker-buildx-plugin docker-compose-plugin
これで、Docker本体とその関連ツールがインストールされます。
5.2 非rootユーザーでのDocker使用
セキュリティ上の理由から、Dockerコマンドを非rootユーザー(通常のユーザー)で実行できるようにすることをお勧めします。
設定手順:
Step 1: dockerグループの作成(通常は自動的に作成されます)
sudo groupadd docker
Step 2: 現在のユーザーをdockerグループに追加
sudo usermod -aG docker $USER
Step 3: 変更を反映させるためにログアウト・ログインまたはWSLを再起動
Windows PowerShellで以下のコマンドを実行してWSLを再起動します:
wsl --shutdown
Step 4: 動作確認
WSLを再起動後、以下のコマンドでDockerが正しく動作するか確認します:
docker run hello-world
このコマンドは、小さなテストイメージをダウンロードして実行します。正常に動作すれば、「Hello from Docker!」というメッセージが表示されます。
5.3 Dockerの基本的な使い方
Dockerをインストールしたら、いくつかの基本的なコマンドを覚えておくと便利です:
- イメージの検索:
docker search ubuntu
このコマンドは、Ubuntuの公式イメージを検索します。
- イメージのダウンロード:
docker pull ubuntu
このコマンドは、最新のUbuntuイメージをダウンロードします。
- コンテナの起動:
docker run -it ubuntu
このコマンドは、Ubuntuコンテナを対話モードで起動します。
- コンテナの一覧表示:
docker ps -a
このコマンドは、全てのコンテナ(停止中のものも含む)を表示します。
- コンテナの停止:
docker stop <container_id>
このコマンドは、指定したIDのコンテナを停止します。
- コンテナの削除:
docker rm <container_id>
このコマンドは、指定したIDのコンテナを削除します。
これらの基本的なコマンドを使いこなせるようになれば、Dockerの基本的な操作ができるようになります。
Dockerは非常に強力なツールですが、初めは少し複雑に感じるかもしれません。しかし、使い方に慣れてくると、開発作業が大幅に効率化されることに気づくでしょう。
- NVIDIAコンテナツールキットの使用
NVIDIAコンテナツールキットは、DockerコンテナでNVIDIA GPUを使用するためのツールセットです。これは特に機械学習や深層学習、グラフィックス処理などの高度な計算を必要とするタスクで重要になります。
6.1 NVIDIAコンテナツールキットとは
簡単に言えば、NVIDIAコンテナツールキットは、DockerコンテナにGPUの力を与えるための「魔法の杖」のようなものです。これにより、コンテナ内のアプリケーションがホストマシンのGPUを直接利用できるようになります。
主な利点:
- GPUアクセラレーションの活用:機械学習モデルの訓練や推論が高速化されます。
- 環境の一貫性:GPU対応の環境を簡単に複製・共有できます。
- リソースの効率的な利用:複数のコンテナで1つのGPUを共有できます。
6.2 NVIDIAコンテナツールキットのインストール
インストール手順:
Step 1: NVIDIAのGPGキーと配布リストの設定
まず、NVIDIAの公式リポジトリを追加します。以下のコマンドをWSL内で実行してください:
distribution=$(. /etc/os-release;echo $ID$VERSION_ID) \
&& curl -fsSL https://nvidia.github.io/libnvidia-container/gpgkey | sudo gpg --dearmor -o /usr/share/keyrings/nvidia-container-toolkit-keyring.gpg \
&& curl -s -L https://nvidia.github.io/libnvidia-container/$distribution/libnvidia-container.list | \
sed 's#deb https://#deb [signed-by=/usr/share/keyrings/nvidia-container-toolkit-keyring.gpg] https://#g' | \
sudo tee /etc/apt/sources.list.d/nvidia-container-toolkit.list
このコマンドは長いですが、要するにNVIDIAの公式ソースからツールキットをダウンロードするための準備をしています。
Step 2: パッケージリストの更新とインストール
次に、パッケージリストを更新し、NVIDIAコンテナツールキットをインストールします:
sudo apt-get update
sudo apt-get install -y nvidia-container-toolkit
Step 3: Dockerデーモンの設定
インストールが完了したら、DockerがGPUを認識できるように設定します:
sudo nvidia-ctk runtime configure --runtime=docker
sudo systemctl restart docker
これにより、DockerがNVIDIA GPUを使用できるように設定されます。
6.3 インストールの確認
NVIDIAコンテナツールキットが正しくインストールされているか確認する方法:
Step 1: バージョン確認
nvidia-container-cli --version
このコマンドでバージョン情報が表示されれば、ツールキットは正しくインストールされています。
Step 2: GPUの利用テスト
docker run --rm --gpus all nvidia/cuda:11.0-base nvidia-smi
このコマンドは、NVIDIA CUDAのベースイメージを使ってコンテナを起動し、GPU情報を表示します。正常に動作すれば、システムのGPU情報が表示されます。
6.4 NVIDIAコンテナツールキットの使用例
実際の使用例を見てみましょう。例えば、TensorFlowでGPUを使用する場合:
- GPU対応のTensorFlowイメージをプル:
docker pull tensorflow/tensorflow:latest-gpu
- GPUを使用してTensorFlowコンテナを起動:
docker run --gpus all -it tensorflow/tensorflow:latest-gpu python
- Python対話モード内でGPUの確認:
import tensorflow as tf
print(tf.config.list_physical_devices('GPU'))
このコマンドで、TensorFlowがGPUを認識していることが確認できます。
6.5 注意点
- ホストマシンに適切なNVIDIA GPUドライバーがインストールされている必要があります。
- WSL 2を使用している場合、追加の設定が必要な場合があります。
- すべてのDockerイメージがGPUをサポートしているわけではありません。GPU対応と明記されているイメージを使用してください。
NVIDIAコンテナツールキットを使用することで、WSL上のDockerコンテナでGPUの性能を最大限に活用できます。これは特に、機械学習や科学計算など、高度な計算能力を必要とするタスクで非常に有用です。
- トラブルシューティング
WSLやDockerを使用していると、時々問題に遭遇することがあります。ここでは、よくある問題とその解決方法を紹介します。
7.1 WSLのバージョン確認と更新
問題:WSLのバージョンが古い、または確認したい
解決方法:
- バージョン確認:
PowerShellで以下のコマンドを実行します。
wsl --status
- WSLの更新:
wsl --update
7.2 WSLのディストリビューションが移動する問題
問題:Docker DesktopとWSLを同時に使用すると、WSLのディストリビューションが勝手に移動することがある
解決方法:
- Docker Desktopの設定を確認し、必要に応じてWSLインテグレーションを無効にする
- WSLのデフォルトディストリビューションを再設定する:
wsl --set-default <DistributionName>
7.3 Dockerコマンドが動作しない
問題:Dockerコマンドを実行しても反応がない、またはエラーが出る
解決方法:
- Dockerデーモンが起動しているか確認:
sudo service docker status
- 起動していない場合は以下のコマンドで起動:
sudo service docker start
- ユーザーがdockerグループに属しているか確認:
groups
dockerグループが表示されない場合は、以下のコマンドで追加:
sudo usermod -aG docker $USER
7.4 GPUが認識されない
問題:NVIDIAコンテナツールキットを使用してもGPUが認識されない
解決方法:
- NVIDIAドライバーが正しくインストールされているか確認:
nvidia-smi
- WSL内でGPUが認識されているか確認:
ls /dev/nvidia*
- Dockerの設定でGPUサポートが有効になっているか確認:
docker info | grep -i gpu
7.5 WSLのメモリ使用量が多い
問題:WSLがシステムメモリを大量に使用している
解決方法:
- WSLの設定ファイルを作成または編集:
sudo nano /etc/wsl.conf
- 以下の内容を追加:
[wsl2]
memory=4GB
swap=0
これにより、WSLのメモリ使用量を4GBに制限します。
7.6 ネットワーク接続の問題
問題:WSL内からインターネットに接続できない
解決方法:
- Windows側のファイアウォール設定を確認
- WSLを再起動:
wsl --shutdown
- Windows側のDNS設定を確認し、必要に応じてWSL内の
/etc/resolv.conf
を編集 - 用語集
最後に、本文で使用した重要な用語をまとめておきます。
- WSL (Windows Subsystem for Linux): WindowsでLinux環境を実行するための機能
- ディストリビューション: Linuxの配布版のこと。Ubuntu, Debian, Fedoraなど
- rootfs: ルートファイルシステム。Linuxシステムの基本的なファイル構造
- Docker: コンテナ型の仮想化技術を使用したアプリケーション開発・実行プラットフォーム
- コンテナ: アプリケーションとその依存関係をパッケージ化した軽量な実行単位
- イメージ: コンテナの元となるテンプレート。アプリケーションと必要な環境が含まれる
- GPU (Graphics Processing Unit): グラフィックス処理や並列計算に特化したプロセッサ
- NVIDIA Container Toolkit: NVIDIAのGPUをDockerコンテナで使用するためのツールセット
- sudo: 一時的に管理者権限でコマンドを実行するためのコマンド
- パッケージマネージャ: ソフトウェアのインストール、更新、削除を管理するツール(apt, yumなど)
- リポジトリ: ソフトウェアパッケージを保存、管理する場所
- カーネル: オペレーティングシステムの中核部分
- ターミナル: コマンドラインインターフェースを提供するアプリケーション
これらの用語を理解することで、WSLやDockerに関する記事や文書をより深く理解できるようになります。
以上で、WSLとDockerの基本的な使用方法、NVIDIAコンテナツールキットの導入、そしてトラブルシューティングまでの説明を終わります。この情報が、皆様のWSLとDocker環境の構築と運用に役立つことを願っています。
参考サイト
Dockerのインストール方法とNVIDIA Container Toolkitのインストール方法が書かれています。コマンドが変更になり、記事と異なるようになることがあるのでチェックすることをお勧めします。
https://docs.docker.com/engine/install/ubuntu
https://docs.nvidia.com/datacenter/cloud-native/container-toolkit/latest/install-guide.html